大判例

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東京高等裁判所 昭和61年(ラ)41号 決定

抗告人

徳永昭輝

相手方

中川ミチ

主文

原決定を取り消す。

理由

一本件抗告の趣旨は、「主文同旨及び手続費用は全部相手方の負担とする。」との裁判を求める、というにあり、その理由は別紙のとおりである。

二よつて検討するに、記録によれば、抗告人を原告、相手方を被告とする横浜地方裁判所昭和五九年(ワ)第三〇八二号建物明渡請求事件について、昭和六〇年六月二八日右当事者及び利害関係人二名間に抗告人が係争建物の共有持分二分の一を相手方に売り渡すことなどを内容とする訴訟上の和解が成立したことが認められるところ、抗告人は、右和解に定められた売買代金債務の履行がないので、同年一二月一一日右売買契約を解除した、として、右事件についての審理継続のための期日の指定を原審に申し立てたものである。

そうすると、原審としては、訴訟終了の有無を判断するために口頭弁論期日を開き、抗告人の前記契約解除により訴訟が復活する旨の主張が理由がないと解する場合には、判決により訴訟の終了を宣言すべきものと解される。しかるに、原審は、右の措置に出ることなく、決定をもつて抗告人の本件期日指定の申立てを却下したものであつて、原決定は違式の裁判として違法といわざるをえない。

三右の次第であるから、原決定を取り消すこととし、主文のとおり決定する(なお、手続費用については、原審においてその負担が定められるべきものである。)。

(裁判長裁判官櫻井敏雄 裁判官増井和男 裁判官河本誠之)

抗告の理由

一 原決定

二 原決定の理由

一、二は別紙添付書の通り

三 原決定の不当性

(1) 和解(訴訟上の和解)の解除とは実体関係についての合意の解除を指すのであつて本件の場合相手方の債務不履行による解除である。之は和解成立后も可能であることには争いはない。

和解が解除されると契約の当時に遡りて和解なかりし状態に復し和解によりて確認せられた権利は初より確認せられざることとなる抛棄したる請求権は抛棄せざりしこととなる。即ち和解前の権利関係(紛争関係)が復活する。本件の場合通常型和解の解除である。

和解が解除されると和解によつて終了した旧訴が当然復活すると判示している(大判昭八・二・一八法学二―一〇―一二四三事案不詳)

債務不履行による解除についても三個の判例がある。

その一で「訴訟の存続又は復活の有無を判断するに当つて何らその取扱を異にすべき理由がない」として期日指定の申立を認めるべきだとした(京都地判昭三一・一〇・一九下民七―一〇―二九三八)がある。

(2) 和解により裁判が終了したの決定に対する反論

和解によつて訴訟が終了するがこの和解調書には確定判決と同一の効力が認められている(民訴二〇三条)。

申立人は訴訟上の和解は私法行為とみる見解に立つ。訴訟上の和解は民法上の和解(民六九五条)がたまたま訴訟の期日においてなされたものにすぎない。

紛争が解決すれば訴訟の目的を欠くとの見解には異議がある。

今日のように私法行為と訴訟行為とがはつきり区別されている法制のもとでは私法行為から直接に訴訟上の効果が発生するものと考へることは出来ない。

訴訟上の和解を裁判所の面前で私法上の和解が行なわれるものとみながらこの裁判所によつて確認されることによつて訴訟上の効果が発生するとの考へ方は裁判所の確認行為を媒介することによつて私法行為の範囲をふみだしている。

之は訴訟上の和解の性質と既判力との問題であつて申立人は和解に私法上の無効や取消の原因があるときは既判力が生じないものとみる制限的既判力説の考へ方に立つものである。

(3) 和解における譲歩が一方的である。

(イ) 本件の和解条件が相手方で申立てた条件にそつたものであり申立人に不利である即ち譲歩が一方的である(民六九五条)。

(ロ) 和解金の支払についてもその資金捻出の方法が解明されず不明である。

相手方の中川ミチは高齢・無職・病気治療中であつて所得もなくその資産的価値(本件持分)も空しい。

相手方の連帯保証人である中川ミチの長男中川房雄も申立時において職もなく申立人より横浜地方裁判所へ同庁昭和五九年(フ)第一一一号事件と破産申立られている。

相手方の息子の嫁中川淑子も無職、孫二人の中一人は女子学生でアルバイトしながら通学中で孫一人は昨年より横浜市役所に勤務しているが生活に余裕がない。

(ハ) 和解金の支払時期についても一ケ年半と長期の割賦払(三回払)である。

懈怠約款も二回と相手方に著しく有利である。

本件和解条項は社会通念上衡平の原則より見て是認されるようなものでなく公序良俗・正義の観念より観て疑点がある。

(4) 申立人は右陳述した所論に立ち横浜地方裁判所第一民事部の昭和六〇年一二月一八日になした相手方債務不履行による期日指定申立を却下した決定は不当であるからその取消を求めます。

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